「精神障がい者は、今の社会を新しく変えて行く存在である!」          

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ふれあい交流会:寄稿文

宮崎大学教育文化学部 木村 素子准教授

精神障害当事者による語りと直接交流の効果について

-宮崎大学特別支援教育コース学生を対象とした実践から-

宮崎大学教育文化学部特別支援教育講座
准教授 木村 素子

1.  はじめに

 近年、学校教職員の精神疾患による病気休職の問題が顕在化してきており、平成19年度以降は、5,000人前後で推移している(文部科学省[2015])。宮崎大学教育文化学部の特別支援教育コースでは、特別支援学校で障害のある子どもの指導・支援に当たる人材を養成しているが、特別支援学校教員もその例外ではない。平成26年度の在職者に占める精神疾患者の割合の学校種別の統計によれば、小学校0.56%, 中学校0.65%, 高等学校0.36%, 中等教育学校0.26%に対して、特別支援学校は0.64%と、昨今、平日や休日における部活動指導負担が問題になっている中学校に次ぐ有病率になっており、私の指導する学生たちも将来、精神疾患の当事者となる可能性をもっていることがわかる。

 今回、県内の障害者関連の情報に詳しい数年来の友人から「宮崎もやいの会」の「ふれあい交流会」(以下、交流会)を宮崎大学の学生にやってみないかとのお誘いを受けた。当初、私は、私の指導学生たちが当事者になりうるという視点よりも、学生たちが将来特別支援学校や障害児・者施設で働いた際に出会うであろう精神障害児・者とその支援について知ることにつながればよいと考えて、是非、学生に勉強する機会を与えてほしいと交流会の実施をお願いした。しかし、交流会の趣旨を説明に来られた小林代表のお話を伺ったり、前段に述べたような学校教職員の現状を鑑みるなかで、むしろ、将来、労働者として社会に出る学生たちが精神疾患になったときに、自身の精神疾患と周囲からの偏見や無理解にどう対峙するかを知るということの方が、より重要なのではないかと考えを改めたのである。

2.  交流会の目的と当日の実施方法

 交流会は、2015(平成27)年12月8日に宮崎大学教育文化学部講義棟において、特別支援教育コース4年生15名を対象に行われた。交流会は、第一部では当事者の語りを聞くことを通して精神疾患に関する知識習得と理解を促すこと、第二部ではグループに分かれて当事者と直接的な対話や交流をすることを通じて、精神障害者の理解と偏見の解消を目指すこと、という2つの目的をもって、第一部第二部合わせて90分で行われた。

 交流会当日は、小林代表のほか、当事者4名、福祉専門職の方1名に来て頂いた。第一部では教卓で当事者2名に自身の体験をお話し頂き、一番目が、福祉関連の事業所で専門職に就いていた男性、次が小学校で講師をしていた女性からの話であった。その後、教室後部に事前にセッティングしていたグループワーク用机に移動し、当事者の方にアイスブレイクとなる短い活動をして頂いたのち、当事者とのグループディスカッションを行った。これまでの大学での講義の経験上、グループ全員が発言機会を得やすいグループ人数は4名程度であると考えていたので、4名グループ4つ(うち1グループは5名)に当事者1名ずつが参加して頂く形を取った。進行を円滑に進めるために、進行役を決め、最初に第一部の感想を言い合った後に、自由な質問タイムとなった。

3.  学生の感想レポートから見る交流会の効果

 交流会の目的は、精神疾患に関する知識習得・理解促進と、精神障害者に対する偏見の解消であったが、学生の感想レポートから、その目的がどのように達成されたかを検討してみたい。第一に、精神疾患に関する知識習得・理解促進であるが、どの学生も書いていたのが「誰でもなりうる」ということであった。これに関しては「真面目な人がなる」という共通項を見いだす学生もいたが、その理由だけでなるわけではないと感じる学生もいた。つまり、真面目という要因だけでなるのではないとすれば、真面目でない人もなりうるのだし、色々な条件が重なれば「自分もなる/周りもなる/子どももなる」という理解に到達したようである。一方で、当事者お二人の話から「仕事のしすぎ」は発病に結びつくと感じた学生も少なくなかった。このほか、第一部で当事者の方が「早めの受診が重要」と強調したことが印象に残ったという学生が多かった。早めに治療に結びつけば、「病気になっても努力してつかんだ“教師”の仕事をやめずにすむかも」と学生は思ったようである。他方で、身近な人が精神疾患になった場合、具体的にどのように声をかけたり支えたりしたらよいのかや、どんな相談窓口があるのか知れてよかったという意見も多かった。

 次いで、第二の目的である、精神障害者に対する偏見の解消であるが、交流会前後でイメージの変化があったようである。具体的には、ネガティブなイメージ、重いイメージ、多くが自殺をしてしまうというイメージ、精神疾患は怖いというイメージ、精神科への偏見等があったが、そういったイメージが変わったという。とくに、当事者の体験談で、一度は仕事を辞めたがいまは社会復帰をしていることや当事者の語り方がポジティブであったことを目の当たりにすることによって、イメージの転換が生じたようである。また、直接交流では、近い距離で話を聞けたことにより「親近感」や「知っている人同士になる感覚」が生まれたようである。もちろん少人数グループで自由に聞きたいことを聞けたことも誤解や偏見の解消につながったようである。

4.  おわりに-精神障害当事者による語りと直接交流の可能性-

 教員の仕事には終わりがない。2011年に実施された栃木県教育委員会の「教員の多忙感に関するアンケート調査」では、教員は「多忙であるのは仕方がない」と思い、「やりがいを感じられ」たり「児童生徒のためになると思えたとき」は、多忙でも頑張ってしまうようである(栃木県教育委員会[2012]3, 24)。しかし、厚生労働省の労災認定基準にうつ病罹患と関連が強い残業時間数の目安が示されているように、いくらやりがいがあっても過度に労働時間が長ければ教員だって罹患しかねない。したがって、将来教員になる学生や現に教員になっている者が、働き過ぎや自身の異変に気づけるよう、彼らに精神疾患について学ぶ機会を提供することは大きな意義があると思われる。また、今回は特別支援教育専攻という、日頃から講義、本、テレビ等でも障害全般、精神疾患についても知る機会が多い学生たちを対象にしていたので、一般の人に比べれば、精神疾患について知識や関心もあるはずであるが、それでも、このように当事者の生の声を聞いたり、直接交流があったからこそ、精神疾患について正しく認識したり偏見を少なくすることができたように思われる。つまり、教員になる人々には研修が必要であるが、専門家講師による講義形式だけではなく、当事者講師による講演や、少人数での直接交流によってこそ、より具体的な精神疾患像を結ぶことができるといえる。本学には小学校・中学校教員養成のコースもある。今後とも学生にこのような機会を積極的に設けていきたい。

引用文献

文部科学省(2015)平成26年度公立学校教職員の人事行政状況調査について.

栃木県教育委員会(2012)「教員の多忙感に関するアンケート調査(検証)」報告書.


   
 
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